恋するガラテア 1

 今や平民すべての期待の星と目されるフレンは、ユーリにとって大切な幼なじみであり、大のつく親友であったのだけれど。実のところ、幼なじみとか親友とかいう枠を超えて、彼のことが好きだった。
 柔らかい金髪や優しげな青い瞳といった王子様のような外見もそりゃあ好きではあったけれど、それより何より好きだったのは彼の純粋で一途な心の強さと陽だまりのような優しさだ。今フレンが騎士でいるのはその行き着くところであって、だからこそユーリにはそんな彼を誇りに思い、愛しく想う。そして完璧なようでいて、頭が固いだとか料理が壊滅的だとか(余計なことさえしなければ完璧なのに)、そんな欠点もあるというのがまた人間らしくていい。恋は盲目、とはまた違う。たぶん。
 いつから彼を想っていたのかなんて、はっきりとは覚えていない。ただ、気がついたらもうフレンを想い始めている自分がいて、それは幼なじみだとかなんとかいう理由でごまかせるようなものではなくなっていた。それに気づいたのが10を数えた頃のことだから、それより前からだというのは、とりあえず間違いないのだろう。そんな幼い子どもだった頃の感情なんて、覚えているほうが不思議だ。
 幼い子どもの初恋。大人になるにつれて思い出に変わっていくことが多いそれが、ユーリの中では変わることなくずっとあった。相手がフレンだからということもあったのだろう。色恋に興味を示さないフレンだから、幸か不幸か失恋なんてすることもなく、またユーリ自身も愛だの恋だのには淡白な性質だったせいで、幼なじみで親友で、そして一途な想いを抱き続けたまま大きくなった。変わったものがあるとすれば、それは欲しがることがなくなって、ただ想い続けることに幸せを感じるようになったことだろうか。結局は一緒にいられればそれで満足なのだ、とはわりと早くから思っていたことであるのだけれど。
 ――だから、目の前でうきうきと歩く姿を見ても、さしたる動揺はなかった。少しだけ、この恋が一方通行のまま終わるんだなと思っただけで。

「ユーリ?」

 先を行くエステルが振り向いた。ユーリが黙りこくってしまったのが気になったらしい。
 同性の目から見てもふわふわと可愛くて、優しくて、守ってあげたくなるような女の子。貴族のお嬢様らしい世間知らずなところや、実年齢よりも幼く見せるしぐさなんかが嫌みでなく似合っていて、それがまた本当に可愛い。
 フレンはどうだか知らないけれど、この可愛らしいお嬢様がフレンを慕っているのは間違いない。こんな女の子に想われればフレンだってやぶさかじゃないだろう。

「どうかしました?」
「いーや? ほら、とっとと行かないとフレンが先に進んじまうぜ」
「? はい」

 再び前を向いて歩きだすエステルの姿の隣に幼なじみの姿を思い浮かべて、ああと思う。きっと、いや絶対に、似合う。誠実なフレンと優しいエステル、こんなふたりであるなら、失恋なんてへでもない。
 そばへ寄ってきたラピードがくぅと小さく鳴いた。なんでもねえよと首を振ったけれど、ラピードはなんだか少し呆れたようにしっぽを振っただけだった。

ザーフィアス出発後でハルル到着前
いろいろ勘違いユーリさん
[2008.11.5 執筆/2008.11.23 加筆修正]

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