恋するガラテア 1.5

 それはどこか喪失感に似ていて、体の中ががらんどうになってしまったみたいだ、とフレンは思っている。
 ユーリが騎士団を辞めて以来、まったく会えないわけではないけれど以前ほど一緒にいることはできなくなって、見ている世界も違ってしまった。それがフレンに何とも言えない嫌な感覚をもたらしている。
 初めて帝都から出て海を見た時、フレンはなんて美しいんだろうと思った。太陽の下、空の青と、空とは違う青が澄んで広がる光景は言葉にできないほどの感動となってフレンの中に焼きついた。そして思わず振り向いて、すごいねきれいだねと言おうとして、開きかけた口をつぐんだ。隣にいたのは小隊の仲間であって、フレンが感動を共有したい相手――つまりは幼なじみで親友の彼女ではなかった。
 ユーリが辞めていく時にもその喪失感は感じたけれど、その時の比ではなかったと思う。辞める前、彼女は約束のキスを残していった。フレンとユーリにとって、キスは愛情を確かめるものじゃなかった。どんなに離れても、変わらずそばに。そんな子どもじみた約束の証だった。とはいえ、それが道を違えてもずっと幼なじみで親友で、ずっと一緒なのだという約束を交わしたのだと思えば幸せ以外の何者でもない。そのときは確かに、一緒に騎士団を変えていくんじゃなかったのかと思いはしたけれど、少し大人になって考えれば、別段おかしいことでもなんでもなかった。彼女は彼女のやり方で。フレンとユーリはずっと一緒だったけれど、違う人間なのだから当たり前なのだと、少しの悲しみを残しつつも納得できた(感情がついてきているかはまた別の話であるけれども)。けれど、やはり隣にいないというのは――それまでずっとともにあった彼女が近くにいないということは、思っていたよりもずっと淋しいことなのだと思い知らされた。見なければわからないことを、言葉でしか伝えられないもどかしさを、フレンはその時初めて知った。
 結局退団後の彼女はかつてのように下町にいて、時折会いに行くことができて、まあくすぶっているだけの姿を見るのは正直つらかったけれど会えることは嬉しくて、まあありていに言えばそれなりには幸せだった。ときどき感じるもどかしさはもちろんあるし、優しく強い彼女が時折問題を起こして心配させられたりもした。それでも幼い頃のようにあたたかくまどろめるようなものではなくても、幸せであることに変わりはなかった。
 だからそんな彼女が帝都を飛び出し――あげくに賞金首になったと聞いた時にはひっくり返るかと思ったのだ。

(まったく、君は)

 心の中でつぶやきながら、手早く手紙を書く。手配がかかっていることを知らせてやろうと思ったから書き始めた手紙だったけれど、それはなんだかひどく味気なく、どこまでも突き放したように思えた。まあ正直、無茶をしたあげくに賞金首になってしまった彼女に苛立ちを感じるのは事実だし、一発殴って叱り飛ばしてやりたいのだけれど。半ばまで書きかけたそれを、結局ぐしゃりと握りつぶしてくずかごへ放った。

(一度、きちんと君に会いたい)

 会えば文句も説教も言ってしまうだろう。たぶん、本当に一発ぶん殴ったりもするだろう。その辺りは止められない。けれど、彼女に会ったら聞きたいことがある。早く追いついてこい、今度はそう書きながら思いを馳せる。
 これからフレンが向かうのはカプワ・ノール。今は不穏な空気が漂っている、それでも青く澄んだ海を臨む街。エステリーゼが自分を追ってきているのなら、きっとユーリも一緒に来るだろう。そしてあの海をきっと見る。そうしたら、

(生まれて初めて海を見た、その感想を聞かせてほしいな)

 封筒に手配書と一緒に便箋を入れて、フレンは笑いきれずに苦笑した。

恋愛感情じゃなく、ユーリに会いたいフレンさん
[2008.11.5 執筆/2009.1.7 加筆修正]

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