サキゾメ #2

 練習後の有里とのビデオ鑑賞(達海現役時代の録画)は、それほど頻度は高くないものの、すでに椿の日課になりつつある。
 当初は「持って来とくから見てもいいよ」と有里が数本置いておいてくれたのを借りて、クラブハウス内でこっそりひとりで見ようとしていた。けれど、クラブハウスで調子のいいビデオデッキは広報の事務室にしかなく、そうなれば大抵は結局有里も一緒になって見るハメになり、最終的にはじゃあ次はいつくらいに、なんて約束するようになっていた。最近じゃあ、ときどき飛び入りで残っていたチームメイトや後藤が加わり、さらには達海猛ご本人様まで顔をのぞかせて何騒いでんのふたりで、なんて飄々と言うことさえある。
 ただそれほどに回数を重ねても、有里がこれで全部、と言い出す様子はまだない。永田家に保管されている昔の試合を録画したビデオはかなり大量らしい。
「あー、ここよここ! ほら、達海さんのフリーキック!」
 マグを片手に、ややエキサイト気味の有里が画面を指さす。ゲームが後半に入った瞬間から一気にテンションアップ。視線はテレビにくぎづけ、話しかける態を保っているのは言葉だけ、彼女自身は完全にゲームにのめりこんでいる。いつものことだけれど。
 こういうときの有里は妙に幼い。到底年上とは思えないキラキラした笑顔は胸の奥があったかくなるので、実のところ最近の椿のひそかな楽しみになっていたりする。きっと、幼い頃に見ていたものを見ることで、当時に引き戻されるのだろう。当然椿は幼い頃の有里なんて知らないけれど、今の彼女を見ているとそれ以外に想像がつかなかった。なんせ一度なんて、あまりに興奮したのか完全にタガが外れて、いけ達海、と呼び捨てしたことすらある有里である。
「このフリーもすごかったのよねー」
 そんな有里の情熱を一身に注がれている画面の中の達海は、何やら手を振ったりしている。指示を出しているようにも見えるけれど、椿は何となくもしかしてなんかしゃべってんのかなあと思う。それも相手選手と。
 達海はプレー中にそういうふうにしゃべることが多いらしい、とは見始めてわりと間もなく気付いたことだ。
「飛んだ壁の足元すかしてゴール決めるんだもの、狙ってなきゃできないわよね」
「そッスね」
 まあなんだかんだ、椿自身もゲームに、達海のプレーに魅入られていて、とても有里のことは言えたものではなかったりする。ときどき有里の言葉に相槌を打ったりちらりと彼女を見たりする程度、あとは時間の経つのも忘れてゲームに見入る。ときどき、自分が一緒にプレーしているような感覚に襲われることすらある。細かいことにも気づくくらい、没頭している。
 ――そんなふたりを見たチームメイトたちが、ひそかにこの鑑賞会を"達海監督専属サポーターズクラブ"なぞと呼んでいたりするのは、おそらく言い得て妙なのだろう(ちなみに有里はそんな呼び方をされているなどまったく知らない)。本人に出会うまで達海という選手がいたことさえろくに知らなかった椿だけれど、今ではすっかりそのプレーに魅了されているわけだし、(これは他の選手たちも同じらしい、椿ほど極端ではないにせよ)、有里に至ってはETUのサポーターで達海ファンだったわけだから、もともと正真正銘の本物である。
「ああいうプレーが出るから、達海さんて余計にすごいなって思わされるのよね」
 ちらりと横目でうかがった有里は、うっとりと若い日の達海の姿を見つめている。そしてふと思う。……どうやったらこんな顔で見つめていた相手を般若のごとく追いかけまわしたりできるんだろう、いや気持ちはわかるけれど。それとも彼女は昔からうっとりしたり怒ったりしていたのだろうか。
 同じようにテレビの中の俳優とかにうっとりしていた自分の姉を思い出し、椿はちょっとだけ首をひねった。それからすぐ、比較対象として間違っているなと思い、やっぱりちょっとだけ頭を振ってそんな思考を振り払った。

なんとなくバッキのお姉ちゃんはもちょっと落ち着いた有里ちゃん、てイメージ
[2010.6.26]

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