サキゾメ #0

 揺れる視線は落ち着かないからでも緊張しているからでもない、画面の中で一緒に走っているからだ。ああでもきっと揺れると言ってはダメだ。決してふらふらと揺れているのではない、ただ一人を追いかけて動き続けていると言わなければいけない。
 それに有里が気付いたのは本当に偶然だった。彼が見ている間ほとんど声を上げていないのに気付かなければ、そこで顔を上げなければ、有里が試合中と同じ真剣な、そのくせきらきらした顔で画面に見入る椿を知ることはなかったのだ。
 はじめて気づいた時には、声が出なかった。出せたからといって何かを言うつもりだったわけじゃない、ただ純粋に言葉も声もなかった。
 試合中は遠くにしか見えない顔を初めて間近に見た。それは日々周囲に犬呼ばわりされ、有里にとっても弟のような(といっても弟がいるわけではないのであくまで想像だけれど、)あどけなささえ残す青年が一人の選手なのだといまさらながら思わされるもので、この心を少しだけ動かした。
 ――かつて、達海の不敵な横顔に心を躍らせたあの感覚に、それはとてもよく似ていた。

 そういう意味で、有里にとって椿は特別な存在だった。

有里ちゃんとバッキのおはなしです、しばしおつきあいください
[2010.6.21]

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