もう手の届かない

 数百年ぶりに目覚めた彼女を出迎えた世界は、彼女の知る頃とはずいぶんと違っていた。
 かつていたものがいなくなり、いなかったものが生まれている。それはごく当たり前のこととも言えるし、神たる彼女はその移り変わりを見ていたこともあったけれど、しばし夢すら見ずに眠り続けていた彼女には、すべてががらりと変わっているようにしか見えなかった。
 そんな中で、彼女を目覚めさせたすぐ上の姉――こうして面と向かって言葉を交わすのは、彼女たちという存在が世界に生まれてからきっと初めてのことだ――は、連れて行きたい場所があると言った。そうして、彼女を神界へと誘った。
 今、姉が統べているという神界は、かつてよりもどこか優しく穏やかな表情をしている。あの、どこか頑なで冷たいかつての世界は、その時代の主とともに消えたのだとひしひしと感じた。悲しくはないけれど(少なくとも、彼女は当時の主に背いていたのだし)、ただ少しさみしかった。

「ここよ」

 姉が足を止めたのは、世界を支える大樹の根元でのことだった。
 そこだけは相も変わらず、厳かな中にも優しさと躍動感をあふれさせ、まさに世界そのものなのだと思わせた。変化のためにそれまで薄らいでいた懐かしさが一気に噴き出してくる。
 が、その大樹の根元の、ほんのわずかな変化に気付いて、彼女はそっと歩み寄った。
 それは墓標だった。小さいながらも整えられたそれは、神界という場所には似つかわしくないものであったけれど。そう、だからそれだけであったなら、きっと彼女も眉をひそめて終わったに違いない。
 傍らに突き刺された、装飾の美しい細身の剣と実用的な弓が、彼女の目を見開かせた。

「これは」
「あなたにとっては特別な二人でしょう」

 姉の声など耳に入らず、彼女は一歩、また墓標へと近づいた。眠る直前まで共にあった、心優しい少女とひねくれた青年を思い出す。
 そうか、と彼女は思った。二人は戦い続けて、こんなところへまでやってきたのか。こんなに遠いところまで……!
 大切なものたちが時の彼方に消えてしまったのだと知った、その美しい青玉から雫がこぼれた。雫は頬の上をつぅと滑り、落ちて、墓標の上に染みを作った。

VP1AED後の世界で、二人を悼むメリー
武器はレナスが自分の記憶をもとに再構成したと思われる
[2007.9.7 執筆/2008.5.1 修正]

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