潤いと灯火

 "果てしなき蒼"、"不滅の炎"。
 救い上げることに特化した楽園を守護する魔剣。その刀身からこぼれる魔力は、歪められた魂すらも救うらしい。

「来てよかったよな、先生」

 すでに抜剣したナップが、襲いかかってくるかつて人間であった者たちをなぎ払う。刀身に触れただけで全身の力を奪われ、崩れ落ちていくのを見ながら、アティもまた遠くから投具で攻撃してくる者を解き放った青い魔力で貫いた。

「先生の放っとけない病のおかげだよ」
「変な病名をつけないでください!」

 大きな声できっぱりと抗議をすると、事実だろとけろりと言われてしまった。それはそれで本当であるのだと多少なりと自覚のあるアティは、反論できずに真っ赤な顔で黙り込んだ。ずいぶんと前に大人になって、すっかり余裕というものを覚えたナップは、こういう物言いがずいぶんと増えている。

「でもそのおかげで、オレたちは失わずに済みそうだから。先生のビョーキさまさま、だよな」

 何を、と訊く必要はなかった。アティはそうですねとうなずきながら、微笑む。彼女の一番最初の教え子である彼は、アティの考え方を誰よりもよく知っている。アティが放っておけないからとすぐ突っ走ろうとするその原動力がなんなのか、それも彼はすべて承知しているのだ。
 ナップを背後から襲おうとするのを弾き飛ばし、アティは街の外へ続く方角を見、それから空を仰いだ。街の外では教え子たちが、空の上では会ったことのない教え子たちの新しい"仲間"たちが、それぞれ戦っているはずである。教え子たちの"仲間"であるならば、アティたちにとってもすでに"仲間"のようなものだ。彼らの大切な帰る場所とそこに住む人々を守るために戦う、それに理由など要らなかった。
 ナップも同じように空を見上げる。

「誰だって笑顔が一番、だもんな」
「ええ。……わたしたちがここにこうしていることで、みんなが笑顔でいられる手伝いができるなら」

 ――それより嬉しいことはありません。
 アティは刀身を掲げながら、言葉の後半を心の中だけでつぶやく。言葉にする必要がないと知っていたから。
 主の想いに応じて魔剣から迸った、混ざり合って白く澄んだ魔力が空へ駆け上がり、破壊の力を切り裂いた。

4最終章、抜剣者編。このふたりに関しては実年齢を考えないようにしています
[2007.6.28 執筆]

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