やっぱりニンゲンてイカレてるぜ、とつぶやいた護衛獣に、トリスは何も言えなかった。
本来の姿に戻り、彼女の護衛として、襲い来る人たることをやめた者たちと戦うバルレルは、きっと数年前のあの出来事を思い出しているに違いなかった。そしてトリスは、それに何も言うことができないまま、同じく彼らと戦っている。
――歪められた魂は、輪廻の輪にも戻れず世界をさまようことになる。
クレスメントの裔として、それを(そしてその事実の重さを)知るトリスには、今の現状はあまりにつらく悲しい現実だった。力を求めるあまりの冒涜の連鎖、それが今なお起こり続けているのだから。
「辛気くせぇ顔してんな、トリス」
バルレルが唐突にそう言って、トリスははっと顔を上げた。
燃えさかるような赤い髪と堂々たる体躯の青年は、おもしろくもなさそうにわしわしとトリスの頭をかきまぜた。何するのよと抗議しても、彼は手を離してくれない。
「ここで起こってることに対してまで、テメェが気に病む必要はねぇだろ」
「バルレル、」
「俺はテメェがイカレてるたぁ一言も言ってねぇし、こいつらはこいつらでテメェで望んでこうなってんだ。無理矢理されたわけじゃねぇ」
気にすんなら、テメェがここまで来た理由を考えてみやがれ。
その一言に、トリスははっとした。脳裏を過ぎる、知り合いの顔。
「わかってんじゃねぇか」
にやりと笑うバルレルに少しだけむかっとしながらも、そうだったのだと素直に思った。
かつての自分たちのように戦う彼らの手伝いをと、そう思ったからだったのに。危うくそれを忘れかけていた。
トリスは手に握った愛用の杖に全身の魔力を集中させる。強く強く、祈りを込めて。空の上の人たちがみんな無事に帰ってくるように。彼らの帰る場所が何者にも侵されないように。自分たちの二の舞は、誰にもさせないように。
隣で、バルレルがやれやれといった感じでため息をついていた。不用意に近寄ってきた敵をぶん殴りながら。
「どうか、律を超えて、みんなのその魂に安らかな幸せを」
願う彼女の魔力はどこまでも白く澄んで輝いていく。
4最終章、超律者編。トリスは21、2くらいで(バルレルは歳云々じゃないし)
[2007.6.28 執筆/2007.7.3 加筆修正]