なんて偶然なの! 走りぬけた歓喜と恐怖にパッフェルは座り込んだまま、瞬きもできない。真っ白の頭は力を入れても空回りするばかり。無駄に空気が喉をこすってかすれただけの音を立てる。
目の前で尻餅をついている子どもは、パッフェルの記憶にあるよりも少しだけ大人に近づいていた。とは言っても、かつて見た幼い姿は霧がかかったようにぼけていて、はっきりとした像を結びはしないのだけど。どこか遠く、興味もなく。ただときどき視界に入り込んだのを記憶しているだけなのだから。
それでも、この子どもがパッフェルを救い上げた赤い髪の優しいひと、その隣にいたあの子どもだと、確信をもててしまうのは。相手もまた呆然とパッフェルの顔を見ているからだった。それは明らかに見知らぬ他人に向けるものではない。思いがけなく出会った知己を見る目。
子どものくちびるが少しだけ震えた。何かを紡ごうとしているのに声が出ない、そんな風に見える。何を言いたいのだろう? なぜと何か訊きたいのか。何をしていると問い詰めたいのか。どちらにせよ、パッフェルにとってこの出会いは喜びであり苦しみであるのだから、何を言われようと構いはしない。
心臓も止まってしまったんじゃないかと思うような静けさを身体の中で持て余すパッフェルは、笑うことも逃げることもできずに座り込んだままだ。けれど、そこから逃げるという選択肢はすぐさま取っ払われてしまった。それはあっという間で、パッフェルがいつもの冷静さを保っていたって反応できなかったに違いない。
命の危険よりもずっとずっと彼女を危地に追い込む再会の相手は、不意ににっこりと笑った。そして、幼いのにとても柔らかく大人びた笑顔を浮かべ、パッフェルに優しく手を伸べた。
子どものくちびるが久しぶりと紡いだのをこの耳が聞いた途端、思わず涙がこぼれそうになって慌てて拭う。同時にぷつりと張りつめていたものが切れて落ちて、無駄にぴんとしていた背がきゅうと丸くなった。
――そうだった。
――この子はあのひとの教え子なのだ!
――誰よりも優しく強いあのひとを、誰よりも知っている子どもなのだ!
強張っていた顔が和らいで、パッフェルもお久しぶりと言った。ひとごろししか知らなかった手がひとごろしなんて知らない手に触れるのは、とても勇気のいることだったけれど。
目の前の笑顔と暖かく柔らかい手に、恐怖は少しだけゆるりと溶けた。
軍学校在籍中の生徒とエクスさま配下のパッフェルさんがもし会っていたらという捏造炸裂
生徒はお好みで想像してやってください
[2007.1.18 執筆/2007.2.21 修正]