郵便配達人が持ってきた手紙の束は、郵便受けに投げ込まれる前、コーラルが直接受け取った。
昼時の戦争後、多少なりと汚れてしまう玄関先を、ほうきでさかさか掃く。最近ではそれがコーラルの仕事のひとつになっていた。少しでもお父さんの手伝いがしたい、なんて世間の親御さんが泣いて感激しそうな思いからやっている。もっとも、子どもが親の邪魔をしてはいけない(いろんな意味で)と思う、というのがその理由としてけっこう大きなウェイトを占めていたりもするのだけれど。
だからこのくらいの時間ならいつでもこうして外にいて、郵便配達人が来ればじかに受け取る。もっぱら習慣化したおかげで、郵便配達のお兄さんともすっかり顔見知りだ。ときどきアメ玉とかをもらったりもする。
ほうきを脇に挟み、コーラルは一番上にあった封筒を裏返した。ときどき変な手紙が来たりもするので、あからさまなものは事前にふるいにかけておく。それも忙しいお父さんの子どもとして、当然の仕事だ。少なくともコーラルはそう思っている。
けれど今日は、ゴミ箱直行の手紙はなかった。代わりに、飾り気のない封筒の差出人の名前を見て、いつも表情の波が薄い顔に喜色が浮かぶ。
丁寧にほうきを壁に立てかけたコーラルは、いそいそとお父さんのところへ向かった。
やっと昼食戦争に慣れ始めたライではあるけれども、疲れることに変わりはない。
お手伝い(建前上はバイトさん)のエニシアもようやく仕事に慣れてきたというところのようで、宿にいる時は元気だけれど、家に帰ればベッドにばたん、らしい(コーラル情報)。初日なんて帰った途端にいきなりばたんと倒れて眠ってしまって、ギアンとレンドラーに殴りこまれたものだ。今となってはいい思い出だけれど。
まあそんなわけで、疲れたライとエニシアは食堂で休憩真っ最中だった。外で掃除をしていたはずのコーラルが、いつになく笑顔で手紙の束を持ってきたのはちょうどそのとき。
「手紙?」
やたらと束になったそれを受け取ると、コーラルがこくこくとうなずいた。それがとてもいい顔をしていたから、ライはどうしたのかと首を傾げる。気後れしなくなっても、相変わらずの微表情っぷりを発揮しまくっているというのに。
「変な手紙じゃない。むしろ、嬉しい手紙」
「誰から?」
向かいの席で、今度はエニシアが首を傾げる。同じような顔をしていたライだけれど、一番上の封筒を裏返してみて、ああと笑った。あまり見た覚えのない字でも、スペルを読み違えたりはしない。
「アルバだ」
「わあ!」
喜ぶエニシア、うなずくコーラル。ライが封筒を開けると、中身はカードだった。封筒より一回り小さいそれには、アルバの字(うまいかどうかはまた別)でメッセージが書いてある。みんな変わりはないですか、おいらは変わらず夢に向かって訓練しています、そんなとても几帳面で真摯な文面は、マジメな本人をしっかりと表していて。
らしいなぁ、とライは思わず笑う。
「ライ、アルバさんはなんて?」
「ん? ああ、元気にしてるってさ。ルヴァイドやイオスも相変わらずみたいだな」
口にすると、それぞれの顔が脳裏に浮かぶ。努力家で苦労性のアルバ、表情にも振る舞いにも隙のないルヴァイド、生真面目に過ぎるきらいのあるイオス。言葉の向こうに、透けて見える。
アルバの手紙を横に置いて、その次の手紙を取る。裏返すと、思わずおっと声が出た。後ろから覗き込んでいたコーラルが微笑う。
「アカネだね」
「ああ。つかあいつが手紙寄こすなんてな」
「もう、アカネさんに失礼だよ」
そう言うエニシアも、おかしそうに笑っている。彼女自身が直接、アカネの人となりを見知っているわけではないけれど。それでも、ライとリシェルとセイロンがよってたかって、アカネ仲間入りの経緯を彼女やギアンに話してある。レンドラーあたりは、それを聞いて怒ったり泣いたり忙しかったけれど!(そしてそれはライにもわからなくもない!)
まあそんなアカネの手紙だから、アルバと同じようになぜかカードで送られてきたその中身は、彼女らしく弾けていた。
「まあ、あれからそんなに時間が経ったわけじゃねえけどさ……変わんないな、アカネ」
「……あ、ライ。封筒にもう一枚入ってるよ」
暴走気味な自称せくしぃクノイチを思い出すライの手元から、エニシアが封筒を取る。もう一枚のカードを引き抜いて、見て、頭がぐらり。
「エニシア? ……どうか、した?」
「あ、う、ううん」
なんでもないよと笑ったエニシアは、首を傾げるコーラルにそのカードを見せた。不思議そうなコーラルが、受け取ったカードを見て目を瞬かせる。ぱちぱち。
「これは達筆すぎ、かと」
「達筆?」
横からのぞいたライの、その眉間にもぐっとしわが寄る。うぐ、と小さく声が漏れて、コーラルとエニシアが揃ってライの顔を見た。
「……と、とりあえずまあ、誰が書いたのかはかろうじてわかるけど」
「誰?」
「シオンさん。アカネの師匠だよ」
ああ、と二人がそろってうなずいた。
ミントの先輩の結婚式の場で、一度顔を合わせたアカネの師匠。きっちりとした大人な人物、それがライの受けた印象だった。怖がらなきゃいけないような人とは思えなかったけれど。まあ、アカネのような性格の人間にとっては、確かに怖いのかもしれない。
きっと、カードには当たり前の挨拶からアカネについての謝罪までしっかり書いてあるに違いない。読めないけど、と思いながらライは笑う。
「わざわざアカネのに一緒に入れて送ってくれるなんて、すごいな」
「アカネのお師匠だからこそ、かと」
コーラルが言うと、エニシアが笑った。
3人しかいない食堂に、忍びやかな笑い声が満ちる。陽射しも笑顔も、その真ん中の手紙も、何もかもが暖かい。
他の手紙に、それぞれの手が伸びる。差出人の名前と、送られてきたメッセージと、その向こう側に見える顔と、そこから生まれる明るいもので3人の笑顔はいつまでも尽きない。
「これ、ユエルから。トリスからも来てる」
「こっちはマルルゥちゃんからだよ。パナシェさん、クノンさん、それにアティさんやナップさんも。……この元気いっぱいなのは、スバルさん、かなぁ?」
「へぇ、ずいぶん来たもんだな。これはフィズからだ。それにガゼルやリプレからも。ああ、アヤからも来てる」
帝都ウルゴーラ、聖王都ゼラム、サイジェント、名も無き島。ただひととき、見たことない地へも思いを馳せる。戦いの中で出会った、今は遠い空の下にいるひとたち。名前を読み上げるたびに、確かなつながりがここにある、そんな気がして胸の奥が暖まった。
「みんな、とっても元気そうだね」
「ホントになによりだよな。いいことだぜ」
今度、リシェルやルシアンにも見せてやろうと思いながら、ライは笑った。
コーラルの、お返事をという提案にも(仕事のことをすっぱり忘れて)すぐさまうなずいたのは、きっとその暖かさのせいに違いない。
「……ところで、なんでこんな一斉にお手紙が来たのかな?」
「さあ。すごく、謎」
「たぶんネンガジョウとかいうやつじゃないか?」
「ネンガジョウ?」
「年の初めの挨拶状だよ。どこだか知らねえけど、親しい人に送る習慣があるんだとさ。……クソ親父が言ってたんだけどな」
「イライラするの、よくない。せっかくいい気分、もらったんだし」
「…………そーだな、コーラルの言う通りだな、うん、あはははは」
(……ライ、ほっぺたが引きつってるよ……?)
SN4ED後
直筆の手紙のいいところは、見たときに書き手の顔が見えることだと思う
ていうかこの3人てば普通に両親とお子さんだすでに
[2007.1.5]