その顔は、古い記憶の中にあるあいつの顔によく似てる気がする。
まったく、とそいつは目の前で腕を組んで立っていた。
にっくき神羅のソルジャー――ザックス、とかいうそいつは、ユフィのケイカクにあっさりひっかかって、いつものようにひょいひょいとやってきた。そして、てんやわんやでトラップにひっかかったりモンスターに襲われたり沼にハマったりして、ぜえはあと肩やらなんやらいろんなもので息をしながら(すごく何か言いたそうだったけど)、ケイサンガイのできごとに見舞われて超ピンチ!なユフィを助けてくれた。
ウータイをぼろぼろにした、あのソルジャーが。
「つうかお前ほんと、やばかったんだぞ」
正直、フクザツな心境だったユフィに、ザックスは言った。初めて見るくらい真剣で、ちょっとどころか泣きたくなっちまうくらいおっかない顔をして。この向かうところ敵ナシのユフィちゃんが、だ。
「その辺うろついてるような、走って逃げれるレベルのとはわけが違う。あいつは一度ターゲットを定めたが最後、そいつを捕まえるまでどこまでだって追い続けんだ」
その蒼い目がソルジャーの証、だってのは知ってた。なんで蒼いのかとかはどっかで聞いた気もするけど、興味がなかったから覚えもしてない。ただそのうそくさい(とユフィは思ってる)瞳が、そりゃあもうまっすぐにきれいな色をしてユフィを見ているもんだから、おっかないのと一緒にすごく居心地の悪い感じを味わわされてるのは確かだ。
それが奇妙なあったかさとか痛さとかに変わってきたのは、ザックスの無駄にデカイ手がユフィの髪をぐしゃりと撫でた瞬間だ。
「お前さ、ほんとに運がよかったよな。たまたま近くに俺がいて」
ここにいたのはたまたまっつうかお前のせいだけどさーなんて笑って、ザックスはさらにユフィの頭をかき回す。グローブに包まれた手はじんわりどころか熱くって、何すんだよと振り払おうとした。けれど、ザックスはニヤニヤ笑いながら(いつの間にかあのおっかない顔はどっかへ消えていた)、器用にユフィの頭でぐっしゃぐっしゃと遊びまくる。
「ちっくしょー、やめろってば!」
「うっせーよ! いっつもメンドーごとに巻き込んでんのお前だろー」
少しくらい遊ばせろとふざけたことを言いながら、そのうそくさい色の目はどこまでも優しそうだった。初めて会った頃なんかもっとうっとうしそうな目をしてたくせに。
「あんま無茶すんなよな」
ザックスがフツウの大人(要するにユフィの周囲にいるやつら)と同じことを言った。そこで軽く息を吸って、それから、フツウの大人とぜんぜん違うことを、同じ口調で続けた。
「本当の戦士ってのは無茶しないもんだぜ」
子どものクセに、なんて言うウータイ大人たちの言葉より、ソルジャーのザックスが言ったそれはユフィの心にばっちり届いた。もちろん、言われたからってそうそうおとなしくしていようなんて思ったりしないし、思ったところでできる性格でもないんだけど。それでも、何かしら感じるところはある。
泥だらけの擦り傷だらけな顔を見上げると、ザックスはまたにかりと笑った。なんだかムカついて、とりあえずその脛を全力で蹴っ飛ばしてやった。
かつてのティファの部屋。そこで見つけたその写真が何年前のものなのかなんて知らない。写ってるティファがユフィとそれほどかわらない年の頃みたいだから、少なくとも4年は前になるんだろう。彼女は確か今、二十歳だったはずだ。ザックスっぽいやつはそんな彼女の横で、少しばかり大人びた面差しで笑っている。
何かの拍子にザックスという名前のソルジャーが死んだという話を聞いた。……もう何年も前のことだ。いつどこで聞いたかなんて、覚えちゃいないくらい。そのソルジャーが本当にあのザックスなのかはわからないし調べもしなかったけれど、その辺りからあいつと連絡が取れなくなったのは事実だ。いつだってメールをすればあいつ自身が来たし(戦争ばっかのソルジャーのクセに暇人なんだあいつ)、まあ来なくとも最低限の返事はよこしていた(ガサツなくせにマメだったりもした)。なのに、きれいさっぱりぱったりと。とりあえず送ったメールが宛先不明で返ってくるわけではなかったけど、ちっとも返事が来ないのに腹を立て、ユフィは程なくしてメールするのをやめた。単純に飽きたってのもある。
同じソルジャーだったっていうクラウドにも、ザックスのことは聞いてない。最近までわりと忘れていたし、覚えていたところでまあもうどうでもよかった。所詮は子どもの頃の思い出と、すっぱり割り切っていたから。
ポケットに入っているケータイを引っ張り出してみる。子どもの頃にこっそりいじっていた親のとは違う、ユフィのケータイ。待ちくたびれて飽きて数年、あれから一度も送っていない。自分のケータイを持って(ただしこっそり)、自由にメールができるようになってからも、あいつに送ろうと思ったことはなかった。登録件数を友達に自慢したくて、水増しに覚えてたアドレスと番号は登録してあるけど。メモリー残量が減っても、消す候補にも上がらないくらいすっからかんに忘れてた。
もともと考えるタチではないユフィだ。ぱかんとそれを開いて、ぱぱぱとメールを打つ。打って送る。宛先はもちろん、今考えていた人物だ。
ユフィの辞書に懐かしいとかいう言葉はない。まあ思い出したから気まぐれに送ってみた、程度。本気で数年ぶりだ。これで返事が返ってきたなら――まあ、適当にからかって遊んでみるのも楽しいかもしれない。
そんな風に思いながらも、なんとなくユフィは笑えないでいるんだけど。
送ったメールがそのまま、宛先不明で返ってきたのは、その直後のことだった。
ザックスはとにかく誰にでも強烈な印象を残すイメージがある
[2008.2.12 執筆]