グレイヴサイド

 まったく悔しいよなぁ、と彼は言った。
 彼の墓標であるところの剣(錆びついて、武器としてはもう使い物にならない)に背中を預け、何がと聞き返す。土臭いのとかび臭いのとが一緒くたに風に混じって吹き付けた。思わず顔をしかめる。

「決まってるだろ」

 そんな自分に気付くことなく(背を向けているのだから当たり前!)、彼はあーあとため息をついて、

「俺が死んでる間に、可愛いあの子と親友が大接近なんだぜ?」

 言われた瞬間に思い出す。ささやかなまでに落ち着いた痛みと、優しく透明な笑顔。二人がそれぞれに愛した彼女の面影が、脳裏に瞬く。

「それは俺の責任じゃない」

 何を言うのかと思えば。思わずため息が音さえともなって漏れる。言うに事欠いてそれなのか。
 彼亡き後に彼女を愛したのは確かに自分だけれど、彼女自身自分を気に入ってくれていた――と思う。当時はよくわからなかったけれど、散々ユフィにモッテモテだったよねえあれでモテてないとか世の男どもに対するボートクだよ、なんてからかわれたあげくにティファでしょ、エアリスでしょ、なんて指折り数えだされれば、まあそうなのかなと思わざるを得ない。そんな他人の心の動きまで、どうやったって責任は取れない。
 そのあたりのぼそりとつぶやく声が聞こえたのか、今度はわかっててもぐちりたい時があるんだとぶつぶつ文句を言い始めた。

「その親友は、墓参りに酒も持って来てくれないし」
「飲めるのか、お前」
「飲める飲めないじゃなく、気持ちの問題?」

 何故疑問系かとつっこむ前に、彼はだってさと肩をすくめる。……見てはいないけれど、なんとなくそんな気配がした。そして、言った。

「せっかく再会できてんだから、親友と一緒に酒を酌み交わしたいじゃんか」

 思わずえ、とつぶやく。反射的に振り向いた先では、少しばかり伸びている黒髪がざわざわと揺れていた。彼が確かにそこにいる。それからやっと、ああそういえばと思った。
 これが彼なのだ。
 ニブルヘイムの惨劇の後、こうしてゆっくり話をするのは初めてだ。彼はもうライフストリームに還った存在であって、普通ならば二度と会うことのかなわない存在である。けれど、たった一つの特別――愛すべき星を巡る乙女の存在――のおかげで、こうして話ができていた。まさに奇跡。
 けれどその奇跡さえ、ただ味わいかみしめるだけでなく、最大限に活かして楽しもうとする。それが自分の親友で、憧れの対象でもある彼だった。
 酒と言われて、少しばかり考える。

「じゃあ、次に来る時は忘れないようにするよ。……でも、一度くらいセブンスヘブンへ来てみないか?」

 店を切り盛りする幼なじみの顔を思い浮かべて、思わず微笑む。彼女の作る料理も酒も、プロ顔負けの一級品だ。
 それを、彼にも味わってほしかった。本当に味わえるのかどうかは別として。

「お前なら、根性で顔出すくらいはできるだろ」
「……あのなぁ。お前、俺をなんだと思ってんだよ」
「さあ?」

 くすりと笑うと、背後の彼もまた笑い声をあげた。
 そうして笑いながら、彼がそれならしこたまおごらせてやると言うので、誰もおごるなんて言ってないと、とりあえずクギだけさしておいた。しっかりと。
 まあきっと、なんだかんだでここへ自分が酒を持ってくるのだろうなと思ったりもしたけれど、それは口に出したりしないでおく。

AC後で、妄想親友コンビ(ごめんなさい)
[2007.10.25/2009.9.7 修正]

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