約束を果たす前に逝ってしまったあんたへ
元気でいるのか?
……いや、あんたのことだからきっと元気なんだろうな。愚問だった。忘れてくれ。
あんたがいなくなってからだいぶ経った。けどその間、俺はちっとも前に進まずに足踏みをしてたよ。ついこの間――それこそあんたがいきなりひょっこり顔を出してくるまで、ずっと。あんたの笑い声に頭をぶん殴られるまで、俺はあんたが俺を恨んでいると思い込んでいたんだ。
けど、そんなことあるわけなかったんだよな。あんたはいつだって能天気でマイペースで人を振り回して……みんなに笑顔を振りまいてた。どんなときだって、ネガティブなものに取り込まれないでいたあんたが、俺への恨みつらみを抱えているなんてわけなかった。むしろあんたはいつだって笑って俺を見ててくれたんだろう。それに気付かないようにしていたのは……俺自身だ。
ごめんな。そして、ありがとう。
俺はもう、あのときの自分を責めたりなんかしてない。する気もない。けど、たったひとつだけ悔いるなら――旅の途中、あんたとした約束を果たせなかったことかな。
あんたのことだ、覚えてるだろ? 飛空艇に乗せてくれってあんたは言った。……でも、乗せてやれなかった。
それだけがちょっと悔しいんだ。今でもな。自分で自分のことを許せても、そればっかりは無理だから。もちろん、できることならなんとかしたいと思ってるよ。
もしいつか乗せてやれる日が来たら……そのときは、感想でも聞かせてくれ。いつになるやらわかったもんじゃないけどな。でも、絶対に俺はその日まで約束のことを忘れない。あんたも忘れないでいてくれよ。
……ああ、そろそろ出かける時間だ。
もし、また気が向くことがあったら手紙を書くよ。たとえ届かなくても、どうせあんたはその辺にいて、見てるだろ? ……でもそう考えると少し恥ずかしいな。やめよう、考えるのは。
とにかく、またな。次にあんたに会う日まで、俺はできるだけ生きておく。できるかわからないけど、楽しく、笑って生きる。だから土産話でも楽しみにしててくれ。それじゃあ。
書き終えた手紙を机の上に残し、クラウドは部屋を出た。階下からマリンの呼ぶ声がしていたからだった。仕事だろうかと思いをめぐらしながら、彼はわずかに軋む階段をゆっくりと降りていく。
主がいなくなり無人になった部屋で、吹くはずのない風に便箋が揺れた。ほんの少しだけ、花の香りが漂う。誰に知られることもなく、ひっそりと――笑うように香っていた。
届かない手紙シリーズ第1弾
そう言いつつも届いてる気がしないでもない
とりあえず、某"彼女"に続く予定
[2007.8.11 執筆]