「ありがとうございまーす!」
籠の中の小さな花束をにっこり笑って突き出してやると、男はあからさまになんだこいつという顔をした。
「お姉ちゃん、これはいったいなんなんだ、と」
「わたしの自慢のお花さんです! ありがとうございまーす!」
説明しつつ同じことを繰り返す。どうせこの男だって、エアリスが突き出す花(売り物)の意味がわからないわけがないのだ。きっとできるだけしらばっくれようという算段を腹の中でしていて、それをきっちりと実行しているに違いない。だって、あんな妙なポリシーだか美学だかを律儀に守っているようなやつだもの、とはさすがにエアリスの偏見に近い誤解であるけれど。
少なくとも、付き合いの長さで想像がつくのだ。この男が考えそうなことくらいは簡単にわかってしまうくらいに、エアリスは男と話をしたり一緒に行動してみたりしているのだ。そしてエアリスがそうであるなら、もちろんそれは男も同じで。
男ははーっとため息をつきながらも、一度はその花束をありがとうと言いながらかっさらおうとした。もちろんそれも予測していたエアリスは、ひらりとかわす。男がチッと舌打ち。それから仕方なさそうに、男がスーツのポケットに手を突っ込んで薄っぺらいサイフを引っ張り出した。勝った。
「ありがとうございまーす!」
財布の中から勝手に100ギル札を抜き出して、男の手に花束を持たす。男が顔をあげてじろりとにらんできた。エアリスは営業スマイルを崩しはしない。
「……お姉ちゃん、それは泥棒って言うんだぞ、と」
「わたしの愛情込めて育てたお花は軽くそのくらいの価値があるんです」
つらりと言う。男は持たされた花をちらりと見た。(何でこんなにこの男と花は似合わないのだろう!)
「よく俺も花の世話を手伝わされてる気がするが、と」
「聞こえませーん」
都合がいいとでもなんとでも言えばいい。エアリスは両手で耳を塞いでそっぽをむく。スラムで生きるからには、たくましくなくてはやっていられやしないのだから。
その間に、男が諦めたみたいなため息をついた。それを横目で見やって、エアリスはコートのポケットから可愛くラッピングした小さな箱をごそごそと出した。
「はい、今日お花買ってくれたひと限定のオマケです」
似合わない花を持ってきょとんとした男の手に、花と同じようにその箱も押し付けた。男はまじまじと可愛くラッピングされた小さな箱を見ている。(これもやけに似合わない!)
「……本命?」
「業務用」
尋ねてくる男にはきっぱりと答えた。
「女の子からいっこももらえなさそうなかわいそうなひとへの」
男が肩をすくめて、そりゃあどうもとだけ言った。
レノさんはいっこくらい女性社員からもらってそうだ
[2007.2.14 執筆]