ロシアン・クッキー

 さあ召し上がれ! 微笑む女はきっと何も知らないやつの目には天使かなにかのごとく映るに違いない。レノの目には天使の姿をしたこっぴどい悪魔しか映りはしないけれど。
 目の前に山と盛られたクッキーは女の手作りで、見た目だけならそれなりにおいしそうなシロモノだった。けれどそれを持ってきた女がにこにこと笑いながら、「砂糖と塩を間違ってない自信はないの!」ときっぱり言い切ったら、その瞬間にホームメイドの甘いお菓子はデンジャラスな2択のロシアンルーレットと化してしまう。悲しいかな、レノはそれを誰よりもよく知っている!
 クッキーは砂糖と塩を間違えたくらいじゃ見た目は変わらないから、口にしてみなければ真実はわからない。できることならば塩っ辛い"あたり"はひきたくなかった。レノじゃなくても、世の一般的な味覚と平穏を求める心があればそう思うはずだ(あなたがわたしの平穏を壊してる、と目の前の女は言うだろうけれど)。
 レノは黙って、本来甘いとか塩辛いとか疑う必要はないはずのクッキーを一枚つまんだ。食べなければ絶対にどこからかハンマーとかを取り出してくるに違いない満面の笑みの前で、それを口に放り込む。そりゃあもう、景気よく。
 見計らって女が言った。お味はいかが?
 ああ、うまいさ。うまいとも。そうとしか言えるわけないっつうに。

たぶん、なんだかんだで間違ってはいないとおもう
[2007.1.19 執筆/2007.2.21 加筆修正]

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