口は災いの、なんとやら

「そういえばさあ」

 きんきんに冷えたビールをあっという間に一杯飲み干したザックスが突然言った。手をしっかりとおつまみ(ティファ特製のから揚げ。めっさうまい!)にのばしつつ、ティファにおかわりを頼んでいる。それを横目に見て、クラウドは自分のグラスを傾けた。

「お前、女装したんだって?」

 ……きっと、噴き出さなかっただけえらかっただろう。彼は。
 その場にいなかったはずのザックスから飛び出した話題は、クラウドをびしりと石化させて、ティファをくすりと微笑ませた。ザックス当人は邪気もない笑顔。子どもの表情にほど近い。
 グラスを握りつぶしそうになるのをこらえて(やってしまったら、しこたまティファに怒られる)、クラウドは無邪気に続く親友の話に耳を傾ける。

「いやさー、エアリスから聞いたんだけど。めちゃめちゃ似合ってて、そりゃあもうかわいかったって」

 情報源はまあ、聞くまでもない。彼女以外にそれをザックスに教えてやれる人間はいないのだ。そもそも、あの思い出したくない事実(できれば夢だと思いたいけれど!)を知っている人間自体、限られるのだから。
 その、数少ない知っているひとり――ティファは、相変わらずくすくすと笑っている。きっと当時のことを思い出しているのだろう。ときおり、ちらちらと彼女の視線が自身のほうへ向けられるのを感じていた。

「ティファ」
「なに? クラウド」
「こいつに余計なことは」
「余計ってなんだよ。だってさー、まじめっ子のクラウドが女装だぜ、女装!」

 1回見てみたかったよなぁと、おかわりしたビールをぐぐっとあおる。隣が不穏な空気を漂わせていることにはまるで気付かないまま、今度は枝豆に手を伸ばしたりもする。
 クラウドの右手がかたわらの剣にかかっても、百戦錬磨であったはずのザックスはのんびりにこにこ、笑顔でティファにもう一杯おかわりーなどと頼んでいた。ライフストリームに溶けている間にボケたのか。もしかしたら単純に、彼のアンテナが敵にしか反応しないだけなのかもしれないが。

「あー、なんで俺ってそういうとこのタイミング悪いかな。せっかくクラウドが女装」
「……ザックス」

 クラウドの声はことのほか低く響いた。ゆらりと席を立って、緩く微笑んで、続ける(ザックスが事態に気付いたのはこの時だった。遅い)。

「ザックス、覚悟はできてるだろ」
「お、おーい、クラウド?」

 控えめな微笑が、瞬時にかき消えた。

「……切り落とす」

「ねえ、クラウド」

 呼ばれて、クラウドは顔を上げる。グラスを磨いていたティファがにっこり笑った。視線をちらりと床に倒れたザックス(モザイク仕様)に向けつつ、

「ちゃんと、」
「わかってる。片付けるから」

 言って、ずるずるとザックス(モザイク仕様)の襟首つかんで歩き出す。店の前に捨て、もとい放っておけば、彼に入れ知恵した張本人(エアリス)が拾いに来るだろう。
 まあ、どちらにせよ引きずられることに変わりないかもしれないけれど。

……おはなしというものは眠いときに書くものじゃない
どんだけザックスかわいそうなんだコレ(いろんな意味で)
[2007.12.4 執筆/2008.5.1 修正]

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