ふむ、と小さな声。それが聞こえたのは、主君の傍らに立つラブラスだけだった。……もっとも、今このアルケイディアの空中庭園にいるのはソリドール家の少年とラブラスだけであるのだけれど。
少年、つまり今の"ラブラス"ことバッシュの主君で、アルケイディア皇帝の名を冠するラーサー=ファルナス=ソリドールは、友人である少女からの手紙を読んでいるところだ。その友人の少女はバッシュもよく知る人物で、今は手のかかる少年とともに空を駆け回っているはずである。
俗に空賊と呼ばれるものに身をやつした少女は、自身も忙しいであろうに、こうして忘れずに手紙を送って寄こす。旅先での話や親しい者たちの近況など、話題は様々。政務で忙しいラーサーを労うように送られてくるそれは、バッシュにとっても楽しみになっていた。若くして帝位に就いた主君は歳相応の少年に戻って手紙を読み、その後で必ず楽しそうにみんなの話をしてくれる。それが微笑ましく、なんとも嬉しいのだ。
「……バッシュ」
呼ばれて、バッシュははいと返事をした。
他者の前では決して呼ばれることのない名前、それを口にする時は、決まって昔の仲間の話になる。さあ今日はどんな話かと思った矢先、ラーサーの手が伸べられた。そこにはしっかりと、少女からの手紙。
驚いて目を丸くすると、ラーサーは笑顔を浮かべる。
「バッシュ、ちょっとこの手紙を読んでみてくれませんか」
「……よろしいのですか?」
「はい。……きっと彼女も許してくれます」
他ならぬあなたですから、とラーサー。バッシュは小手をしたままの手で手紙を受け取るだけ受け取った。
ちらりと見た紙面は、かつて何度も目にした柔らかな少女らしい字で埋まっている。
「読んだら、その後で僕の考えを聞いてください」
読んでもいいものかとまだ少し迷っていたバッシュを、ラーサーの言葉が押す。とても楽しそうに、そしていたずらをする前の子どもの顔で笑う主君、だからバッシュもつられて笑った。こんな顔で笑うのなら、見られてまずい話ではないのだろう。そう思う。
わかりましたとうなずいて、バッシュは手紙を読み始めた。何かいたずらをするのなら、ザルガバースより亡き弟より、自分が一番適任だ。
思いっきりEDネタバレな主従
たぶんEDから3年とか4年とかそのくらい経ってます
[2007.2.2 執筆/2007.2.21]