遠き日の財宝は未だ恋しく

 どこか安心したようなクラウドの背中を見ているバルフレアが、またなんともいえない顔をしているのを、ラムザは目ざとくも見つけてしまった。出会ったのはついこの間、付き合いは短いけれど、彼のこんな顔を見るのは初めてだった。

「どうかした?」

 訊くと、バルフレアはいや、と軽く肩をすくめる。

「元の世界に残してきちまったもんがあるんだなと思っただけさ」

 バルフレアの視線はずっと前のほうへと注がれている。ラムザもつられるようにそちらを見た。その方向は、ついさっき一人の女性が歩いていったほう。その女性――クラウドの、失われた記憶に刻み込まれたのとそっくりな女性は、もうとうに道の彼方へ消えていた。
 ラムザにはその女性がクラウドにとってどんな存在だったのか知る由もないけれど。ただ、きっととても大切だったのだろうというくらいは想像に難くない。
 まだじっと、バルフレアは道の向こうを見つめていた。……いや、違うだろうか。彼の目は、もっとずっとはるか遠くを、それこそ距離も時間もすべてを越えた向こう側を見ている、ように思えた。
 誰か。クラウドにとっての花売りのような誰かを見つめている、ような。

「……ねえ、バルフレア」

 彼を呼んだのは無意識のうちだった。なんだと振り向いた彼を見てから、一瞬訊かない方がいいかと思ったけれど、呼んでしまったのだからと思い切る。

「もしかして、バルフレアにもいるの? "元の世界へ残してきてしまったもの"」

 その瞬間、普段から余裕しかうかがわせない彼が、わずかに動揺したかのように目を瞬かせた。それからふっと笑う。図星だったらしいとは、ほぼ直感で感じ取る。

「ああ、大事なお宝だな。空賊としちゃ、放っておけないシロモノだ」
「シロモノって」

 思わず言葉に詰まる。"人"を指していることがわからないわけではないだろうに、シロモノと表現するとは。
 呆気にとられたラムザに、その原因たる張本人は、にやりと笑って腕を広げた。どう見ても気障な仕草も、この男にかかると自然そのものにしかならないから不思議である。

「そいつはな、城の奥で厳重に守られてる。この俺でも盗み出すのに骨が折れるくらいにな」
「城の、奥?」
「ああ。奥の奥、ご立派なイスの上で空を見上げてるのさ」

 それってと言いかけて、ラムザは言葉を飲み込んだ。彼の言う、城の奥で守られた宝物、とは。バルフレアのいた世界がどういうしくみなのかは知らないけれど。城の奥の立派なイス、が指すものはきっと、ラムザの考えるものとそう違いはないはずだ。
 思わず焦るラムザとは対照的に、バルフレアはあくまで軽い調子だった。たいした気負いも緊張もない。むしろ、気障な笑顔がどこかからかい、楽しむような風情さえ見せていた。

「さっきのお嬢さんみたいに素直でもなけりゃ、可愛げもないんだがな。それでも光るところがあるもんでね」

 そこに惹かれちまったのさと再び遠くを見る。
 その様子がなんとも言えない雰囲気を漂わせていて、ラムザはそれ以上何も聞けなかった。例えば、その瞳に映る女性(ひと)がどんなひとであるのか、とか。

PSP設定で。それでもバルアシェ(ど根性)
[2007.6.15 執筆/2007.6.28 加筆修正]

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